小咄

とある幼稚園での教育事情

【キャスト】
年少組先生:真砂・捨吉 年長組先生:あき
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆

「は〜い、皆、お外で遊ぶよ〜」

 捨吉が声をかけると、園児たちが、はぁ〜い、と大きくお返事をして駆けて行く。
 大方の園児が出払った教室で、真砂はやれやれ、とモップを手に、床を掃除し始めた。
 そこでふと、教室の隅で小さくなっている女の子に気づく。

「何をしている。皆と外で遊ばないのか?」

 女の子の前に屈んで言う。
 さくらというこの女の子は、いつも大人しく、取り残されがちだ。

「さくら、おえかきのほうがいい」

 そう言って、教室の隅でスケッチブックを広げる。
 そして、ちらりと真砂を見上げた。

「まさごせんせ、いっしょおえかき」

 ずい、と広げたスケッチブックの片方を差し出す。

「俺は絵は下手くそだ」

 ぼそ、と言う。
 手先は器用だが、絵だけは苦手だ。

 そもそもこんな幼稚園児相手に、絵の上手い下手もないだろう、とも思うが、その辺り、真砂は譲らない。
 さくらも特に絵を強いることなく、傍に置いていた犬のぬいぐるみを真砂に渡した。

「まさごせんせと、まるちゃん」

 にこ、と笑い、スケッチブックに向かう。
 どうやらこの犬は『まるちゃん』らしい。

「せんせ、まるちゃんだっこして」

 さくらに言われ、真砂はちょっと困った顔をした。
 ぬいぐるみは、そう大きいものではない。
 元々さくらがいつも持っているものだ。

 さくらの両手で包めるぐらいのものなど、真砂の片手でも小さい。
 抱っこ、といっても、どうすればいいのか。

「まるちゃんは、まさごせんせのことがすきなのよ」

「ああ……そう」

「だから、だっこしてあげて」

 う〜む、と真砂が悩んでいると、てててっと一人の男の子が、部屋に駆け込んできた。

「さくらちゃん、またまさごせんせーをひとりじめしてる〜」

「え〜っずる〜いっ」

 途端に園庭に出ていた園児らが、わらわらわらっと駆け戻ってきた。
 ひく、と真砂の顔が強張る。

 真砂の危惧した通り、園児たちは、あっという間に真砂を取り巻いた。
 そして、あっちこっちから真砂を引っ張る。
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