小咄
「まさごせんせー、いっしょにあそぼう〜」

「あそぼうあそぼう〜」

 女の子は真砂の足に取り付き、男の子は背に登る。

「こら待て。おい、そんなに引っ張るな」

 真砂が身体を捻れば、背にいた男の子が落ちそうになる。
 慌ててそれを抱きとめると、我も我もと皆が真砂に、さらに群がる。

「まさごせんせー、ぼくも〜」

「あたしも〜」

「わぁ〜い、まさごせんせーのぼり〜」

 きゃいきゃいと真砂に押し寄せる子供の群れは、ある意味恐怖だ。
 鳥に襲われる有名な映画のよう。

「だあぁぁっ! ふざけんな。危ないだろうがっ!」

 登ってくる子供を引き剥がしながら、真砂が吼える。
 真砂が必死になればなるほど、子供はテンションが上がるようだ。
 真砂の肩にいた子供が、ぴょんと飛んだ。

「だ〜いぶっ!!」

「あぁぁほぉぉぉ!!」

 子供の叫びと真砂の叫びが重なる。
 中腰とはいえ、真砂の背は高い。
 その肩から何も考えずにダイブなどすれば、子供など無傷でいられようか。

 纏わり付く他の子供らを振り払い、真砂はダイブした子供を必死の思いで受け止めた。

「すご〜い! まさごせんせー」

「かっこいい〜」

 相変わらずきゃいきゃいと騒ぎ、またも子供は真砂に受け止めて貰おうと、そこかしこからダイブを始めた。

「ばっ馬鹿野郎っ! お前ら、皆受け止められると思うなぁっ!!」

 叫びながらも、真砂はその辺りを駆けずり回って、飛び回る子供らを受け止めて回った。
 その正確さ・速さたるや、並みではない。
 一人も落とすことなく、次々と受け止めていく。
 もっとも顔は必死だが。

「さすが真砂先生。どんな無茶しても、真砂先生がいてくれたら、園児たちに危険はないなぁ」

 部屋の中を必死の形相で駆けずり回る真砂を廊下から眺めながら、捨吉はのんびりと呟いた。
 そんな捨吉を、さくらが見上げた。

「すてきちせんせ」

 スケッチブックを見せる。

「うん? ……これは、まるちゃんだね」

 そこには、誰かがまるちゃんらしき犬を、ぎゅ〜っと抱っこしている絵が描いてあった。

「これは? さくらちゃん?」

 違うよなぁ、と捨吉は首を捻る。
 さくらにしては髪が短い。
 それでなくても園児の絵というのは、無条件に『女の子は髪が長く、男の子は髪が短い』ものだ。

 案の定、さくらは首を振った。
 そして、犬のぬいぐるみ『まるちゃん』を抱っこする。

「まさごせんせ」

 ぶは、と捨吉が吹き出した。

「ま、真砂先生に、モデルを頼んだの? 真砂先生が、まるちゃんをぎゅっとしてくれたのかい?」

 あの真砂が、犬のぬいぐるみをぎゅっとしたところは、是非とも見てみたいものだ、と思いつつ、捨吉はさくらに言った。
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