小咄

とある若者たちの合コン事情

【キャスト】
合コンメンバー:捨吉・羽月・あき・ゆい
mira商社 課長:真砂 派遣事務員:深成
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆

 ある日の午後。
 相変わらず深成が山のような書類を相手に、だかだかキーボードを打っていると、モニターの向こうから、捨吉が身を乗り出してきた。

「ねぇ深成。今日何か用事ある?」

「ん? 何?」

「今日さ、隣の課の友達と合コンしようって話があるんだ。あきちゃんも行くし、深成も参加しない?」

「合コン……」

 ちろ、と深成が捨吉を見た。
 食い付いたわけではない。
 『て何?』とか続きそうな、きょとんとした顔だ。
 ちょっと捨吉は不安になった。

「あのさ、まさかとは思うけど、合コンが何か、わかってないわけじゃないよね?」

 いくら子供っぽいとはいえ、深成だって社会人だ。
 だが何となく、深成に限ってはあり得ないことではないとも思う。
 が、そんな捨吉の心配を、深成は不満そうな顔で否定した。

「いくら何でも、それぐらいわかってる! わらわだって、そんな子供じゃないんだから!!」

「そ、そうだよね。いや、安心した。ところでさ、行く?」

 にこりと笑って言う捨吉に、深成は己の机を見た。
 書類の山。

「ん〜……。今日の、何時から?」

「六時半」

「えっ、そんなの無理だよ。とてもそんな時間に終われない」

「そうなの? どれ、ちょっと手伝ってあげようか?」

 捨吉が机を回り込んで、書類を手に取ったとき、真砂が会議から帰ってきた。
 早足で自席に戻り、座りながら机の上の書類をざっと見る。

「あ、課長。あの、そっちに置いてあるのが元々頼まれてたやつで、向こうのが営業のほうので」

 机から乗り出して言う深成に、真砂は手に取った書類をぺらぺらと捲った。

「……よし。こっちはいいが」

 言いつつハンコを押す。

「まだ営業のほうはミスが多いな。慣れてきたらスピードは上がるが、ミスも出てくる」

 とんとん、とまとめた書類を、ずいっと真砂が差し出した。
 差し戻しだ。
 しょぼん、と深成が書類を受け取る。

 ため息をつきつつ、再びPCに向かう深成に、真砂は席を立って近づいた。
 しばらく深成の背後に立って、彼女の進め方を眺める。

「……こういう欄が、よく間違ってるな。数式が間違ってるんじゃないのか」

 しばし深成が打ち込むのを見ていた真砂が、画面を指差して言った。
 そして、次の瞬間には、真砂の手が深成の右手を包んだ。
 そのまま、ちょい、と深成の右手が握っているマウスを動かす。

「ほら。ここが間違ってる」

 そう言うと、真砂は背後から手を伸ばして、キーボードを打った。
 一瞬だが、真砂の胸が深成の頭を少し押す。
 まるで後ろから抱かれているような格好だ。

「ほれ。これでこの数字を入れてみろ」

 何事もなかったかのように、真砂が身体を戻して言う。
 深成も、特に何の反応もせず、かちゃかちゃとキーボードを打った。

「あ、ほんとだ。さっきと違う」
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