小咄
とある占い館での相談事情
【キャスト】
占い師:千之助 助手:狐姫 客:六郎
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
とある町の大きな商店街の一角。
お洒落なビルに挟まれ、その占い館はひっそりとあった。
「全く旦さんも、物好きだよねぇ。占いなんざ、信じちゃいないくせに」
黒い幕を張り巡らした一室で、狐姫がぶちぶち言う。
「おうさ。大体、当たるも八卦、当たらぬも八卦って言うだろ。どうでもいいのさ」
丸いテーブルに片肘を付いて煙管をふかしながら、千之助が言う。
占い師の言うことではない。
「それにしても」
千之助が、椅子の背に腕を引っ掛けて、身体を捻った。
後ろにいる狐姫を、しげしげと見る。
「お前さんのそういう姿も、なかなか良いもんだねぇ」
「あらっそうかい?」
ふふふ、と笑いながら、狐姫がくるりと回る。
今の狐姫は、チャイナドレス姿だ。
いつもの太夫の格好では、さすがにここにはそぐわない。
だからといって、何故チャイナドレスなのかは謎だが。
ちなみに千之助は、易者のような格好だ。
「旦さんは、別にいつもの着流しでも良かったんじゃないかい? ま、着る物ぐらいで、あちきの心が離れたりはしないけどさ」
「安心したぜ。けどなぁ、一応それらしい雰囲気は、出したほうがいいだろ」
「最近の世の中ってのは、よくわかんないよねぇ」
「だから、こんなぼろい商売が成り立つのさ」
けけけ、と笑っていると、店の前のカーテンが揺れた。
「おっ? お客か?」
千之助が煙管を煙草盆に打ち付けると同時に、狐姫が入り口に向かう。
二重になっているカーテンの向こうに消えた狐姫が、入ってきた客と話している声が聞こえてきた。
「ささ、遠慮無く、奥へどうぞ。今は待ち時間もありません」
「い、いや。私はまだ、入るかどうか悩んでいただけで……」
おやおや、と千之助は、入り口を睨んだ。
若い男の声だ。
---まぁったく、昨今の男にゃ反吐が出らぁ。男のくせに、占いなんぞに頼らねぇといけねぇのかい。情けねぇ---
心の中で悪態をついていると、再びカーテンが揺れた。
「さぁどうぞ」
狐姫に案内されて入ってきたのは、思ったとおり若い青年だ。
落ち着きなく、きょろきょろしている。
「いらっしゃい。まずはお名前を聞きましょか」
「あ……、六郎と申します」
初めて前に座る千之助に気付いたように、六郎は、はっとしたような顔になり、素直に名乗った。
いくら千之助が小さくても、子供でもあるまいし、目に入らないほどではないはずだ。
よっぽどテンパっているのだろう。
その態度から察するに、こういうところは初めてのようだ。
占い師:千之助 助手:狐姫 客:六郎
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とある町の大きな商店街の一角。
お洒落なビルに挟まれ、その占い館はひっそりとあった。
「全く旦さんも、物好きだよねぇ。占いなんざ、信じちゃいないくせに」
黒い幕を張り巡らした一室で、狐姫がぶちぶち言う。
「おうさ。大体、当たるも八卦、当たらぬも八卦って言うだろ。どうでもいいのさ」
丸いテーブルに片肘を付いて煙管をふかしながら、千之助が言う。
占い師の言うことではない。
「それにしても」
千之助が、椅子の背に腕を引っ掛けて、身体を捻った。
後ろにいる狐姫を、しげしげと見る。
「お前さんのそういう姿も、なかなか良いもんだねぇ」
「あらっそうかい?」
ふふふ、と笑いながら、狐姫がくるりと回る。
今の狐姫は、チャイナドレス姿だ。
いつもの太夫の格好では、さすがにここにはそぐわない。
だからといって、何故チャイナドレスなのかは謎だが。
ちなみに千之助は、易者のような格好だ。
「旦さんは、別にいつもの着流しでも良かったんじゃないかい? ま、着る物ぐらいで、あちきの心が離れたりはしないけどさ」
「安心したぜ。けどなぁ、一応それらしい雰囲気は、出したほうがいいだろ」
「最近の世の中ってのは、よくわかんないよねぇ」
「だから、こんなぼろい商売が成り立つのさ」
けけけ、と笑っていると、店の前のカーテンが揺れた。
「おっ? お客か?」
千之助が煙管を煙草盆に打ち付けると同時に、狐姫が入り口に向かう。
二重になっているカーテンの向こうに消えた狐姫が、入ってきた客と話している声が聞こえてきた。
「ささ、遠慮無く、奥へどうぞ。今は待ち時間もありません」
「い、いや。私はまだ、入るかどうか悩んでいただけで……」
おやおや、と千之助は、入り口を睨んだ。
若い男の声だ。
---まぁったく、昨今の男にゃ反吐が出らぁ。男のくせに、占いなんぞに頼らねぇといけねぇのかい。情けねぇ---
心の中で悪態をついていると、再びカーテンが揺れた。
「さぁどうぞ」
狐姫に案内されて入ってきたのは、思ったとおり若い青年だ。
落ち着きなく、きょろきょろしている。
「いらっしゃい。まずはお名前を聞きましょか」
「あ……、六郎と申します」
初めて前に座る千之助に気付いたように、六郎は、はっとしたような顔になり、素直に名乗った。
いくら千之助が小さくても、子供でもあるまいし、目に入らないほどではないはずだ。
よっぽどテンパっているのだろう。
その態度から察するに、こういうところは初めてのようだ。