小咄
「げ〜。雨降ってんじゃ〜んっ!」

 店を出るなり、羽月がでかい声で叫んだ。

「さぁいあく〜! 誰か、傘持ってないの〜?」

 捨吉に寄りかかりながら、ゆいが据わった目をあきに向ける。

 結局あの後、小一時間ほど清五郎たちと同席させて貰ったが、大人な二人は程良いところで席を立ってしまった。
 清五郎が気を遣って、一緒に帰る? と聞いてくれたが断った。
 皆を放って帰るのは後ろめたいし、何となく、お邪魔かなぁ、という気もした。

 うっかり『この後』があるのかもしれないし……と目を細めてほくそ笑むあきなのだったが、千代はそんなあきの頭の中を見透かしたように、別れ際に耳元で小さく言った。
 『清五郎課長は、そんな人じゃないからね』と。

 『そんな人じゃない』ということが、『自分にとって、そういう対象でない』ということなのか、『そんなことをするような人ではない』ということなのかはわからないが、やはり千代は、真砂一筋なのだ。

---でもまぁ、わかんないわよね。だって清五郎課長だって、十分素敵だもの。だからこそ、千代姐さんだって誘いに乗ったんだろうし---

 うふふふ、と含み笑いしていると、ゆいが車道に向かって、ぴっと手を挙げた。

「タクシー!!」

「ちょ、ちょっと、ゆいさん……」

 タクシーを停めるときも、ゆいは捨吉の肩に手を回したまま。
 どうやら『その後』があるのは、こちららしい。

「え、じゃ、じゃあ、皆でタクで帰ろうか。ねっ」

 捨吉が、あきを振り返って言う。
 捨吉も結構酔っ払っているらしく、足元が若干怪しい。
 だが理性は残っているようだ。

 このままゆいを捨吉に押し付けてしまうのは、ちょっと可哀想かな、と思っていると、捨吉の向こうから、ゆいが、ぎっとあきを睨んだ。
 空気を読んで遠慮しろ、と言いたいらしい。
 そこに、タクシーが一台停まった。

「さ〜、じゃあ捨吉くん、行きましょ〜」

 ゆいが捨吉の手を掴んだまま、タクシーに乗り込む。
 が、ここで全く空気を読むことなく、タクシーの助手席のドアを、羽月が開けた。

「そうだね〜。じゃ、れっつらご〜っ!」

 明るく言いつつ、さっさと乗り込む。
 それを見、あきは一歩、後ろに下がった。

「じゃ、お疲れ様」

 にこりと笑うあきを、ゆいに手を掴まれ、身体半分タクシーに乗っている捨吉が、慌てたように見た。

「い、いやいや。だってあきちゃん、傘……」

「大丈夫。あたしいっつも折りたたみ持ってるんだ」

 そう言って、鞄の中から傘を出し、ぱっと開く。

「さすがね〜、あき。じゃ、気を付けてね〜」

 呆然としている捨吉の向こうから、ゆいが満面の笑みで手を振る。
 あきも軽く手を振り、足早に駅のほうへと立ち去った。

---ま、羽月くんがいるから、何とかなるでしょ。そういえば、今日深成ちゃんが来てたら、また違ったかしら。羽月くんと良い感じかな? いや、どうだろう。案外深成ちゃんて、大人な男の人に好かれるかもだし、深成ちゃんも、羽月くんじゃ物足りないかもね---

 なかなか鋭い分析をしながら、あきは一人、ふふふ、と笑いながら、駅までの道を急ぐのであった。

・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
 おっと、また大咄だ。
 これねぇ、結構良いところで切っております。捨吉、貞操の危機。

 そしてそして! お子様深成と真砂課長は、とうとうプライベート空間へ!!
 ……真砂からしたら、雷に怯える子犬を保護した感じかもですが( ̄▽ ̄)

 さらに続けようと思いましたが、はたと気付けばこの回は『捨吉たちの合コン』がメインですよ。なので、とりあえずここまで。
 この後は……どうでしょうね。知りたい?( ̄▽ ̄)ニヤリ

2014/07/10 藤堂 左近
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