小咄
「第一走者、よーい……」
いよいよ戦いの火蓋が切って落とされる。
この競技は危険なので、妨害要員でない観客は、ちょっと離れたところから声援を送っている。
すなわち今コースの脇にいる者たちは、妨害要員と思っていいわけだ。
己のクラスの人間以外は、基本的に敵である。
ぱーん、とスターターがピストルを撃った。
同時に第一走者が飛び出す。
真砂と千代と、何故か六郎が見守る中、深成が抜け出した。
「よしっ」
真砂の横で、何故か六郎が頷いた。
深成の弁当は奪いたいが、深成を負かす気はないのだ。
六郎の勝負の相手は真砂だけ。
もっとも深成が走り終えてしまえば、後は己のクラスを応援しないと、真砂との勝負に影響してしまうわけだが。
「何故お前がうちのクラスを応援してるんだ」
ぼそ、と真砂が六郎に言う。
「君のクラスを応援してるわけじゃない。私は深成ちゃんを応援してるんだ」
六郎が言い返すが、真砂は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「お前のほうが、よっぽど私情が入ってるじゃないか。そっちのほうが、職務上ヤバいんじゃないのか」
「な、何だとっ」
六郎が思わずいきり立ったとき、わぁっと歓声が上がった。
「うにゃんっ!!」
一瞬後に聞こえた悲鳴(?)に顔を上げれば、深成が足元に撒かれた泥水に足を滑らせたところだった。
「み、深成ちゃんっ」
思わず踏み出そうとした六郎だったが、深成は泥に手を付くと、えいっと一回転した。
そしてそのまま、派手に泥水を跳ね上げて、第二走者に襷を渡す。
が、追いついてきた二番手のA組第一走者が、思い切り深成にぶち当たった。
「にゃーっ」
横に吹っ飛ぶ深成から、辛くも襷を引ったくり、B組の第二走者は走り出す。
深成はころころと転がって、コースから大分離れたところで止まった。
「深成ちゃん……。だ、大丈夫なのか」
はらはらと六郎が、いまだコース外で丸まっている深成を見ながら言う。
自分の競技でなかったら、今すぐに駆け寄りたいところだ。
そんな六郎の横の真砂は、深成をちらりと見ただけで、リレーの行方を見守っている。
「君は深成ちゃんが心配ではないのか」
特に深成を見もしない真砂に、六郎は非難がましい目を向ける。
が、真砂はその六郎も見ないまま、口を開いた。
「そんなことより、てめぇのクラスを心配しろ。あれぐらいの妨害、可愛いもんだぜ」
真砂の態度に憤慨しながらも、コースに目を戻した六郎は、自分のクラスの第二走者が、大玉に襲われているのを見た。
大玉が転がってくるような優しいものではない。
でかい玉が、投げられてくるのだ。
いよいよ戦いの火蓋が切って落とされる。
この競技は危険なので、妨害要員でない観客は、ちょっと離れたところから声援を送っている。
すなわち今コースの脇にいる者たちは、妨害要員と思っていいわけだ。
己のクラスの人間以外は、基本的に敵である。
ぱーん、とスターターがピストルを撃った。
同時に第一走者が飛び出す。
真砂と千代と、何故か六郎が見守る中、深成が抜け出した。
「よしっ」
真砂の横で、何故か六郎が頷いた。
深成の弁当は奪いたいが、深成を負かす気はないのだ。
六郎の勝負の相手は真砂だけ。
もっとも深成が走り終えてしまえば、後は己のクラスを応援しないと、真砂との勝負に影響してしまうわけだが。
「何故お前がうちのクラスを応援してるんだ」
ぼそ、と真砂が六郎に言う。
「君のクラスを応援してるわけじゃない。私は深成ちゃんを応援してるんだ」
六郎が言い返すが、真砂は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「お前のほうが、よっぽど私情が入ってるじゃないか。そっちのほうが、職務上ヤバいんじゃないのか」
「な、何だとっ」
六郎が思わずいきり立ったとき、わぁっと歓声が上がった。
「うにゃんっ!!」
一瞬後に聞こえた悲鳴(?)に顔を上げれば、深成が足元に撒かれた泥水に足を滑らせたところだった。
「み、深成ちゃんっ」
思わず踏み出そうとした六郎だったが、深成は泥に手を付くと、えいっと一回転した。
そしてそのまま、派手に泥水を跳ね上げて、第二走者に襷を渡す。
が、追いついてきた二番手のA組第一走者が、思い切り深成にぶち当たった。
「にゃーっ」
横に吹っ飛ぶ深成から、辛くも襷を引ったくり、B組の第二走者は走り出す。
深成はころころと転がって、コースから大分離れたところで止まった。
「深成ちゃん……。だ、大丈夫なのか」
はらはらと六郎が、いまだコース外で丸まっている深成を見ながら言う。
自分の競技でなかったら、今すぐに駆け寄りたいところだ。
そんな六郎の横の真砂は、深成をちらりと見ただけで、リレーの行方を見守っている。
「君は深成ちゃんが心配ではないのか」
特に深成を見もしない真砂に、六郎は非難がましい目を向ける。
が、真砂はその六郎も見ないまま、口を開いた。
「そんなことより、てめぇのクラスを心配しろ。あれぐらいの妨害、可愛いもんだぜ」
真砂の態度に憤慨しながらも、コースに目を戻した六郎は、自分のクラスの第二走者が、大玉に襲われているのを見た。
大玉が転がってくるような優しいものではない。
でかい玉が、投げられてくるのだ。