小咄
「でもまぁ、不味くはない」

 もしかしたら、わからないほうがいいかもしれない。
 そう思い、真砂はゆで卵を手に取った。

「良かった。あのね、そのゆで卵も、多分良い感じの火の通り具合だと思うんだ」

 にこりと嬉しそうに笑い、深成はいそいそと真砂に卵を取り分ける。
 そんな深成を、六郎は、じ、と見た。

「ほら。ちょっとだけ、黄身が柔らかいでしょ。塩味もつけてみました」

「ああ。まぁな」

 特に褒めることもない真砂に、六郎は我慢出来なくなって口を挟んだ。

「おい。もうちょっと深成ちゃんの労を労ってあげたらどうだ。それだけの弁当を作ってきてくれたんだぞ」

「俺だって、かなりの恥を忍んでやった」

 六郎を見ることもせずに、真砂が切り返す。
 深成も別に気にすることなく、六郎に笑いかけた。

「いいんだって。わらわ、真砂先生が食べてくれるだけで、ありがたいんだから」

 特に深い意味はないのだが、六郎はそんな深成がまたいじらしい。
 真砂のような頑張り甲斐のない男にあげるよりも、自分にくれたらもっともっと褒めてあげるのに! と思った六郎だったが、残念ながら、そんな思いは深成本人に打ち砕かれる。

「それにこれは、ちゃんとした勝負の結果じゃん。だから、六郎先生にも分けてあげられないんだ。真砂先生のためだから」

 ごめんね、と言う深成だったが、その謝罪の言葉よりも前の言葉に、六郎はショックを受けた。
 『真砂先生のためだから』

 これも、そう深い意味はないであろうに、妙な先入観のある六郎には、変な方向にしか思えない。
 なかなか厄介な思考回路である。

 固まっている六郎を黙って見ていた真砂は、タコさんウインナーを咥えたまま、ふと気付いたように、ジャージの上着を脱いだ。
 それを、深成にばさ、と被せる。

「体操服、泥だらけじゃないか。それ着ておけ」

「あ。でも、この上から着たら、先生の上着が汚れちゃう」

「そんなもん、洗えば済む。それよりも、泥は乾きにくいから、そんな格好してると風邪ひくぞ」

「そっか。じゃあ脱いだほうがいいかな」

 もぞもぞと真砂の上着の中で、自分の体操服を脱ごうとする深成に、六郎は、また鼻の奥が熱くなり、気が遠くなった。

・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
 あれあれ、勝負以外がやたらと長くなってしまった。
 体育祭第二弾。

 中二ということは、深成は本編の最後のほうと、まさに同じ年齢なわけですが、やっぱりこっちではお子様です。
 そしてお子様なだけに、悪気なく六郎を傷付ける( ̄▽ ̄)

 まぁ六郎も、結構妄想が暴走するタイプのようですので。
 行動に出してしまう辺り、あきちゃんよりも始末が悪いような気もしますな。

 あきちゃんはきっと、最後の職員室での出来事も覗き見していることでしょう。
 そして真砂が上着を深成にかけた辺りで、妄想はピークに達するのでは。
 そこまで書いたら、また長くなるから割愛しましたが( ̄▽ ̄)キャラ被ってるしね。

2014/07/24 藤堂 左近
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