酒乱のススメ
そう言うなり、ミスティリーナは自分でおかわりをグラスに注いでいる。そんな彼女の様子を見た他の三人も、思い思いに飲み始める。そうなると、そこは恒例となりつつある愚痴大会が花を咲かせているのだった。



「おう、ウィア。そっちの大将は本気で婿入りするつもりなのか」


「そのようですね。もう国元に、そのつもりだと連絡したようですし」


「それはそっちの勝手っていったらなんだが、苦労するんじゃないのか。ほら、例のシスコンもいることだし……」



そう言いかけたジャスティンは、ウィアの背後の様子に気がつくと思わずまじまじと見ている。そんな彼の視線を感じたウィアは、何があったのかという表情を浮かべていた。

その彼の耳に「キャハハ」という笑い声が聞こえたような気が。おまけに背中が重いような感じもする。

おそるおそる首を後ろにまわしたウィア。彼は、自分の背中にピッタリとはりついているミスティリーナの姿に、すっかり驚いてしまっていた。



「え、えっとー」



驚きのあまりに声も出すことができなくなっているウィア。そんな彼に、猫がゴロニャンと喉をならすようにしてすり寄っているミスティリーナ。



「ねえ、ウィアも飲まない。これ、おいしいわよ」


「そ、そうですか」



思わず彼女の手からグラスを受け取り口にしているウィア。しかし、困惑の表情は隠すことができない。そんな彼に、ミスティリーナはいかにも楽しげに話しかけているのだった。



「ウィアも苦労するわよねー。だって、あのとおりの相手だもんねー」



どこか呂律がまわっていない調子で喋っているミスティリーナ。その合間には「キャハハ」とも「キャラキャラ」ともいいがたい笑い声がもれなく加わっている。

そんな彼女に背後霊のごとくひっつかれたウィア。彼は適当に相槌をうつことで、ミスティリーナが離れてくれないだろうかと期待しているようだった。

しかし、今のミスティリーナは完全にウィアに懐いた状態。その彼女がおいそれと離れる様子はない。それどころか、彼の膝に乗ろうとまでしているのだった。



「ねえ、ジャスティン。あのままにしておいていいの」



ウィアは必要以上にミスティリーナにひっつかれ、酒をすすめられることに困りきっている。それをみかねたセシリアは、ジャスティンにそう言っていた。

しかし、訊ねられた方はどこ吹く風。ジャスティンは気にする必要はないと、ヒラヒラ手をふっているのだった。



「心配することないさ。そのうちに離れるって」



そう言うとジャスティンはチビリチビ酒に口をつけている。そんな彼の様子にセシリアはため息をつくしかないようだった。



「本当にかまわないの。ウィアが困っているじゃない。それにますます酷くなってるわよ」

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