酒乱のススメ
「お前はそう言うが、あの状態じゃ離れないし離せないって。ほっとくしかないだろう」



そう。これは、あくまでも他人のこと。対岸の火事とばかりに言い切ったジャスティン。

彼はミスティリーナをウィアから引き離すのは不可能だ、とセシリアに言っている。もっとも、それは『絡み酒』の相手はご免こうむりたい、という本音がちらほら顔を出しているともいえることだったのだろう。

酒好きの彼にしてみれば飲んで絡んでくる酔っ払いの相手をしながら飲むのは、酒を飲む楽しみが半減してしまうということもある。それならば、今のままウィア一人を犠牲者にすればいい。そう簡単に考えていたのだった。


しかし、そうは問屋がおろさない。


気持ちよく飲んでいたジャスティンだが、自分の服をひっぱられる感覚にちょっと眉をひそめているのだった。



「セシリアか? 悪戯するんじゃない」


「リアじゃないもーん。あ、た、し、だもーん」



それと一緒に聞こえる「キャハハ」という笑い声。それを耳にした瞬間、ジャスティンはそれまでの楽しい気分が一気に吹き飛んだように顔面蒼白となっているのだった。

そんなジャスティンの様子など何のその。彼を新たな獲物と認識したミスティリーナが、ゴロニャンとすり寄ってくる。



「リアじゃなきゃダメ? そんなこと言わないでよー」



瞳をウルウルさせ、すりすりしてくるミスティリーナ。そんな彼女にジャスティンは目を白黒させるだけだった。

そして、そんな彼の視界に入ってきたセシリア。彼女は余りのことに、呆気にとられたような顔をしている。


そんなセシリアに何か言わないと気がすまない。


なんといっても、彼女はその場にいる中で唯一、ミスティリーナの引っ付き攻撃にあっていないのだ。その彼女に、ジャスティンの最大にまで達した怒りのボルテージが向けられていた。



「セシリア! こいつに二度と酒、飲ませるな!」



ミスティリーナにしがみつかれ、どことなく情けない格好でそう叫ぶジャスティン。


そんな彼にどうすればいいのかというような顔をむけているセシリア。


部屋の中にはミスティリーナになつかれ、困ってしまった男たち二人の叫び声だけが、むなしく響いているのだった。



~Fin~




< 3 / 4 >

この作品をシェア

pagetop