傷ついてもいい
二日後。

斎藤の休みに合わせて、一泊で温泉に行くことになった。

急だったので近場しかなかったが、斎藤が知り合いの旅行会社に頼んで、予約を取ってくれていた。

時間を気にしながら、メイクをしていると不意に携帯が鳴った。

「げ…田中女史…」

思わず声に出してしまう。

出ようかどうしようか迷ったあげく、仕方なく通話ボタンを押した。

出なかったら、休みの間中気になりそうだ。

『もしもし?花村さん?』

「あ、はい!おはようごさいます」

田中女史の声を聞くだけで、仕事モードにスイッチが入る。

『休みの時に悪いんだけど…。ちょっと面倒なことが起きて』

「え?どうしたんですか?」

嫌な予感で胸がザワザワする。

『あの、相澤って学生、いたでしょ?こないだ辞めた』


「あ、はい…」

佳奈の胸は更にざわついた。

『あの子のバイト先から電話があってね、なんだか倒れたらしいのよ。で、実家に連絡しても誰も出ないし、大学しか連絡先がなかったからって』


「え!倒れたって」

佳奈の心臓がドクンドクンと音を立てる。

『あのコ、バイト先に辞めたこと話してなかったみたいなのよねえ、まったく迷惑な話だわ』


「あの!倒れたって、意識はあるんですか?」

『それがよくわからなくてね。あなた、親しかったんじゃないの?様子見て来てくれない?病院はね…」

「え?でも、あの…」

どうしよう!

佳奈は、一瞬でパニックになった。

斎藤になんて言えばいいのか?

それより直己は、私なんかが行ったら迷惑するんじゃ…

頭の中で思いながら、体は勝手に動いてメモを取っていた。

『…じゃあ、よろしくね』

プッ…と電話は切れて、佳奈は、その場で呆然となった。










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