傷ついてもいい
「過労みたいです」

彼女は、唐突に言った。

「あ、そうなんですか…」

佳奈は、ホッと胸を、なでおろす。

「無理してたんだと思います。お母さんの治療費とか生活費とかお金かかるし」

長い髪を後ろで一つに結わえている。

こんな時に不謹慎に思ったが、襟足の後れ毛が艶っぽかった。

肌が透き通るように白く、目鼻立ちはハッキリとして、特に長い睫毛が印象的だった。
Tシャツにデニムというシンプルな服装なのに、スタイルの良さからか、とても目立つタイプだと佳奈は思った。


「相澤くん、バイト先に大学辞めたこと話してなかったんですよね。私も今日始めて聞いて。
あ、私、同じ店でバイトしてる高輪柚香(タカナワユズカ)といいます」

柚香は、佳奈にぺこりと頭を下げた。

「あ、私、花村といいます」

佳奈もぺこりと頭を下げた。

「相澤くんて、なんでも自分で抱えてしまうとこあって。店でもなんか損な役回りばかりしてるんですよね。それで、無理がたたったみたいで」

「そうですか」

直己らしい、と思った。

佳奈には、よく甘えてくれたけれど、きっと外で気を遣って疲れていたんだろう。

「最近、特に疲れてたみたいなんですよ。少し環境が変わったようなことを言ってて。お母さんのこともあったし」

柚香は、顔を上げて佳奈をじっと見た。

「何かご存知ないですか?例えば彼女と別れた、とか」


「え?!そんな、全然知らないです!」

佳奈は、柚香の綺麗な顔にドキドキしてしまった。


こんな顔に見つめられたら、男女関係なく好きになってしまうんじゃないかと思った。



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