傷ついてもいい
「佳奈さんは?斎藤さんと結婚するの?」

「うん。まあ由奈がしたばっかりだから、もう少し先になるけど、籍はいれるつもりだよ」

他人事、みたいだ。

佳奈は、直己の髪が光に透けるのを見ながら、昨夜のことは、本当に幻だったんじゃないか、と思った。


「佳奈さんなら、普通のいいお母さんになれるね、きっと」

「そうそう、口うるさくてめんどくさい」

「うん、すぐ人のことバカって言う」

「それっていいお母さんなの?」

「うーん、どうだろ」

二人で笑いあった。


直己と居る、この空気感を佳奈は愛していたんだ、と思う。


そして、きっと直己も。

「佳奈さん」

「ん?」

直己が急に真面目な顔で佳奈を見た。


「佳奈さんは、俺の青春でした」

「あ、うん…ありがとう」

さよなら、を、言われた気分だった。




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