傷ついてもいい
直己とは、バイト先の大学で知り合った。

事務の仕事をしている佳奈に、直己は、人懐こく話しかけて来て、そしてたまにコンビニコーヒーなんかを奢ってくれた。

「俺、今月、家賃払えなくて、アパート追い出されそうなんです」

ある日、直己は、泣きそうな顔で佳奈に言ってきた。


「えー!大変じゃん!」

目的は、お金かよ、と心の中で思いながら、今月分くらいなら立て替えてやるか、と思っていた時。

「佳奈さんちにいってもいい?」

にこにこ笑いながら言う直己に、コイツはバカなのかと佳奈は、本気で思った。


「バカ!いいわけないでしょ?!」

「なんで?男でも居る?」

「い、いないけど」


自慢じゃないが彼氏いない歴10年。

18から22まで付き合った人が今のところ最初で最後。

「じゃあ、いいじゃん!」

「よくない!お金貸してあげるから!家賃払いなさい!」

しまった、と佳奈は思った。

これに味をしめて、これからもお金をせびられたら。

「いいよ。そんなのもったいない。他のコのとこに泊めてもらうから」

直己は、あっさり言うと、近くを歩いていた同級生らしき女の子に声をかけた。


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