傷ついてもいい
「どうぞ、ちらかってますけど」

斎藤の部屋は、佳奈の部屋と同じ造りとは思えないほどシンプルだった。

余計なものはほとんどなく、まだ部屋の隅には、段ボールが重なっていたが、リビングには、小さなテーブルとソファとテレビくらいしか無かった。

「お邪魔します」

なんか私、凄い大胆なことしてるな…と佳奈は、自分で感心する。

まだ会って数回の男の人の部屋に入るなんて。

けれど、斎藤には、どこか相手を安心させる雰囲気があり、佳奈は、ほとんど抵抗を感じることは無かった。


「さっき買った柚子のお酒、ソーダで割ると美味しいと思いますよ」

斎藤は、佳奈が買ったお酒をソーダ割りにし、キッチンで簡単なツマミも作ってくれた。

「すいません、なんか私、女のくせに気がきかなくって」

テーブルに何か出てくる度に、佳奈は、ペコペコと頭を下げる。

せめて、と思い、佳奈は、斎藤のコップにビールを注いだ。
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