傷ついてもいい
しばらくは、また同級生トークをしたり、世間話をしていたが、ビールから焼酎に切り替わる頃、斎藤は少し酔ってきて、亡くなった奥さんの話を始めた。

「俺、本当に仕事ばっかりで、アイツには何にもしてやれなかったんです。なんか後悔ばっかりで」

「そうなんですね」

佳奈は、しんみりした気持ちになった。

「五年前のままなんです。気持ちが。一歩も前に進めてない。こんなんじゃダメなんだけど」

「けど、しょうがないですよ。無理に忘れられるものじゃないでしょう?」

「うん、そうなんだけど」

斎藤は、焼酎に入れた氷をカラカラと揺すった。

「花村さんは?いないんですか?忘れられない人とか」

「あ、そういうのは無いです」

佳奈は、あまりにも何もないのもかっこ悪いかと思ったが、仕方なく本当のことを言った。


「そうかあ。女の人は、強いもんな。カナも、もう忘れろって言ってるかもな」

「え?佳奈?」

「はい、元嫁の名前、カナって言うんです」


佳奈は、一瞬固まった。

少し言いづらかったが口に出した。

「私、名前、佳奈って言うんです」

「え?」

斎藤も固まった。
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