傷ついてもいい
「そうなんだ」

斎藤は、じっと佳奈を見つめた。

「なんか、すいません。素敵な思い出の邪魔したみたいで」

佳奈は、笑って誤魔化した。

「そんなことは無いです。むしろなんか嬉しいです」

佳奈は、さっきから斎藤が熱を持った目で見ているのを感じていた。

「あの、私、そろそろ」

時計を見ると10時過ぎだった。そろそろ直己が帰ってくる。

「あ、そうですね。すいません、女の人を長く引き止めて」

斎藤は、少しふらつく足で立ち上がった。

「大丈夫ですか?」

佳奈が斎藤の腕を支えると、そのまま抱きしめられた。

「え、ちょっと…」


「カナ…」


「斎藤さん?」

斎藤は、泣いていた。声を押し殺し、背中を震わせて。

佳奈は、しばらく斎藤の腕の中で抱きしめられていた。


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