傷ついてもいい
「私もさあ、今日は、久しぶりに男の人に抱きしめられたよ」

言ってから、すぐに後悔した。

これは、いわゆる恋愛話では無いし、人様に話すようなことではなかった。

「え?!佳奈さん、彼氏出来たの?」

直己は、少し驚いた顔で佳奈を見た。

「いや、あのそうじゃなくて、ごめん、忘れて」

「なにそれ?じゃ、相手は、佳奈さんの身体が目的ってこと?」

「いや、それこそ違うっしょ!」

佳奈は、顔の前で、ブンブン と手を振った。

「じゃあなに?」

「んーと、まあ、それは大人の事情ってやつ?」


斎藤のことを思うと、そう言うしかなかった。

「なんだよ!それ!」

普段、ニコニコして滅多と怒らない直己がムッとして言った。

「別に話してくれなくてもいいけど、なんで子供扱いするかな?!」

少し疲れてイラついているようだった。

「別に子供扱いしてないよ」

「してる」

「してないってば!」

しばらく押し問答が続いた。


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