傷ついてもいい
「ちょっと、私、もう行くからね!食器くらい、洗っといてよ」

直己に鍵を放り投げる。

まださすがに合鍵を作る気にはなれなかった。

「はーい!りょうかーい」

直己は、鍵をナイスキャッチで受けとると、いってらっしゃーい、と手を振った。

…けどまあ。
同棲も悪くないよな。

佳奈は、最近、そんな風に感じていた。

そこに愛がなくても。

思いっきり、片想いでも。


エレベーターを降りる為に、下矢印ボタンを押す。


「おはようございます」

隣にスーツ姿の男の人が並んだ。

「あ、おはようございます」

佳奈は、ぺこりと頭を下げる。

見かけない顔だった。

短めの髪がスッキリとした顔立ちに似合っている。

「先週、越してきた斎藤といいます」

彼は、佳奈にぺこりと頭を下げた。

「あ!そうなんですか。よろしくお願いします!」

爽やかな笑顔を向けられて、佳奈は、少し緊張して頭を下げた。
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