傷ついてもいい
「俺、佳奈さんに嘘ついてたことがあるんだ」

駅からの帰り道。

直己は、不意に話し出した。

「え?なによ。なんか怖いなあ」

佳奈は、身構える。
直己が嘘、なんてイメージと合わない。

「俺、ほんとは、アパート追い出されてなかったの」

「へ?どういうこと?」

「だからさ、まだアパート引き払ってないし、住所は前のまま」

「え?ええっ?!」

佳奈は、夜の住宅街で声をあげてしまい、キョロキョロとまわりを確認した。

「なんで、そんな嘘…」

「まあいいじゃん!だから、出てくってば」

「あんたねえ!」

佳奈は次第にムカついてきた。

言われてみれば、住所不定で就活なんてできるわけがない。
なんでこんな簡単なことに気がつかなかったんだろう。佳奈は、情けなくなった。

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