傷ついてもいい
「いままでほんとにありがとう。斎藤さんとお幸せにね」

直己は静かにそう言うと、珍しくその後は、黙って食事をした。

佳奈は、この時間が永遠に続けばいい、と心から願っていた。

….さよなら、バイバイ、ありがとう。


楽しかった。

元気でね。

どの言葉も口に出すと泣きそうだった。

これから直己は、社会人になって、新しい出会いもいっぱいあって、こんなたった二ヶ月暮らしたオバサンのことなんて忘れちゃうだろうけれど。

私は、忘れないよ。


結婚しても、子供が産まれても。

きっと一生、死ぬまで忘れない。

大好きだったよ。

気がつくと、佳奈のシチューの皿にポツリポツリと涙が落ちていた。

「あーあ、佳奈さん、味が変わっちゃうよ」

直己は、笑って、ティシューを取ってくれた。

「ありがと…。直己、ありがとね」

佳奈は、直己の目を見ることができなかった。


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