もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
遼ちんは無視されていることに怒るわけでもなく、私とジュン交互に見つめる。
「私だけど」
面倒くさそうに答えた私は、本当に、とっても面倒くさい。
「はっ?説明しろよ!!偽名使ってたのか?」
「えっ?スミレちゃん、偽名はダメだよな」
遼ちん……
少し黙ってて。
なんて、言えるわけもなく、私は遼ちんに紙とペンをお願いした。
すぐに遼ちんは私の目の前に店名の入ったメモ帳と、ボールペンを置いてくれた。
「それ、この店の粗品。いいだろう?」
「えぇ、はい」
どんな粗品が良くて、どんな粗品が悪いのかなんて私にはよくわからないし、今はそれどころじゃない。
勝手に勘違いしたのはジュンで、頭が悪いがために起きてしまったことをきちんとわからせる必要がある。
そうやって怒られているのは理不尽だって、私は寧ろ被害者だってわからせなきゃ。
私は遼ちんが持ってきてくれた粗品のメモに大きく“純麗”と書いた。
「これが私の名前」
ジュンと遼ちんは私の書いた文字を覗き込む。
「ジュンレイ」
そして、ジュンはあの時と同じようにそう口にした。
「あぁ、そういう事。じゃあ、ジュンが悪いな。ん?ジュンが馬鹿なのか」
笑いながら煙草に火を点けた遼ちんは、この話に興味がなくなったのか、いきなり仕事をし始めた。
くわえ煙草姿がやけに様になる。
「で、なんだよ」
「私は名前を聞かれたとき、砂浜にこう書いたでしょ?」
「あぁ。だから、それがなんなんだよ?」
遼ちんの言動のせいか、さっきより苛立っているジュン。
「この字は普通“スミレ”って読むの」
「はっ?」
「だから、ジュンレイじゃなくてスミレって読むんだってば」