もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~

「こんな弁当食わなくていいぞ」



「私は幕の内弁当好きだけど」



「だから、どれが幕の内なんだよ?」



「いや、どれって言われても、これ自体を幕の内っていうんだけど」



「俺は洋食が好きなんだよ!!」



まるで子供だ。



幕の内で洋食なんて聞いたことがないし、幕の内を知らなかったリュウが悪いのに、まるでお弁当が悪いみたいな言い草。



拗ねたリュウを無視したまま、私はリュウの嫌いな和食を、次々に口へと運ぶ。



「美味しいのか?」



ソファーの上に、体育座りをしたリュウは、口を尖らしている。



「物凄く美味しいよ。それに体に良いしね」



「体に良いのか?」



「えぇ、とってもね」




「それなら、食ってみようかな」



「お腹が空いてたら、なんだって美味しいわよ」



私はリュウと会話をしながらも、手は止めずにおかずを次々と口の中へ放り込んだ。



なんだか、手を止めてしまうと、せっかく食べる気になってくれたリュウが食べるのをやめてしまいそうで。



「よく言うよ。こんなリッチな所に住んでるんだから、美味しいものしか食べたことないだろ?」



「ふっ?」



“えっ?”って言ったつもりが、里芋を頬張っているせいで、変な声が出る。



「さっきのだよ。なんだって美味しいって言えるほど、質素な料理なんて食ったことないでしょ?」



そんなことはない。



“質素な料理”ってのが、どんな物のことを言っているのかはわからないけど、きっとリュウが想像しているのとは違う。



確かにこんな立派なホテルの最上階に住んでいて、“リッチ”な生活をしているけれど……



“質素”な物を食べてないわけではない。



こんな風に、誰かと会話をしながら食べる食事は、私にとっては珍しい。



一人の時は……食べないか、適当に済ます。



だから、基本私の夕食は“質素”だと思う。



けれど、こんなことを説明するのは面倒くさいから、


「そうかもね」


と、曖昧な返事になってしまった。


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