もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
私はリュウを踏みつけるように、車外へと出た。
実際には踏みつけていたんだと思う。
何度か「痛い」って声が聞こえていたから。
外に出て、辺りを見回した私は唖然とした。
だって、さっき車に乗り込んだ場所はすぐそこで、肉眼でもはっきりと見えるくらいに近い。
「何で?何考えてんの?」
ボソッと呟いた独り言にリュウは「何?何?」って言っていたけど、喋る気さえおきなかった。
「純麗ちゃん、さっさと店入ろう!俺、楽しみにしてたんだ」
私に腕を絡めて、こんな台詞を吐くリュウが女の子なら、物凄く可愛いんだと思う。
甘え上手な女の子に男ってのは、弱いらしいから。
ただ、リュウは恋する乙女でもなければ、甘え上手な女の子でもない。
私と同い年の男。
青年なんて呼ばれちゃう年頃の男なんだから、こんな行為は“鬱陶しい”としか思えなかった。
「いらっしゃいませ」
“鬱陶しい”青年を引き連れて店内に入ると、先程のカフェとは違い、心地いい音量の挨拶に出迎えられた。
「リュウさん、お久しぶりです。今、お呼びするので少々お待ちください」
「今日は別にいいよ!選んでくれる子連れてきたから」
スーツを身に纏い、ちょい悪風の年配の店員はリュウに優しく微笑みかける。
その微笑みが胡散臭く思える私はひねくれてるのだろうか。
「そういうわけにはいきませんよ。挨拶だけでもさせますので」
「お好きにどーぞ」
ブランドとか、高級なんてものにまったく興味のない私は、こんな店に来たのは始めてだった。
足を踏み入れるだけで、“高い”ってことがわかるなんて嫌味ったらしい。
そういえば、瑠伊がここのブランドの鞄を持っていたのを思い出し、何気なく鞄がディスプレイされている所へと近いた。
高い。
ブランド品なんだから、高いのはわかっていたけど……
それにしたって高すぎる。
私の分の稼ぎも使っているのに、いつも「お金なーい」が口癖の瑠伊。
こんな鞄を買っているなら、確かにお金はないだろうと納得していると、リュウが私の耳元で
「アイツ、胡散臭いよね」
と、囁いた。