もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
「ち、ちょっと!待って!」
「あっ?」
もう話掛けんなオーラ満開のジュンに、一瞬怯んでしまったけど、ここで引くわけにはいかない。
「そんな顔って、どんな顔よ!」
だって、無理矢理なんて、絶対にやだ。
契約を結ばない限り、この体には触れさせない。
とーちゃん以外には……
それが、私の中のルール。
私にだって譲れないものはある。
「さっきみたいな顔だよ」
「だから、どんな顔って、聞いてんの!」
「俺を哀れんだように見たり、“経験ないのね”って、嘲笑うような顔だよ」
「そんな顔してないけど」
「してた」
「してない」
「してた」
「してない」
これじゃあ埒があかない。
けど、そんな顔してないのに、してたなんて言われたら、どのタイミングで無理矢理されるかわからない。
「しつけぇな。俺はしてたって思ってるけど、お前がしてないって思ってるなら、それでいいだろ?」
「良くないから!」
はぁとため息を吐いて、ジュンは再び足を進めようとした。
「待ってって!無理矢理なんてごめんなの。だから白黒つけさせて」
「それか……」
「えっ?」
私の言葉に強張っていた顔を緩めたジュンは、私の元へとゆっくりと近づき、今まで見た中で一番の優しい顔をした。
そして、
「もう会うことはねぇよ。だから、安心しろ。さっきのは言葉のあやだ。金を返したいって思ってたけど、リュウといるなら、金に困っちゃいねぇだろ?必要ならリュウに貰えばいい」
「……」
「リュウの女に関わる気は一切ないしな。これからは、俺を見かけても話しかけてくんな。お前と俺は出会ってさえいねぇ」
私は何も言えなかった。
きっと、瞬きさえもできていない。
言われてる内容とは反比例する、ジュンの優しい微笑みに、私は息をするのがやっとだった。