もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
冷たい声を出されるくらいなら、こっちのほうが良い。
機嫌が悪いくらいのほうが、ずっといい。
「と、言うわけで、スミレちゃん、どう?僕ちんの彼女にならない?そして、耳元で名前を囁こうよ!勿論、君付けで!」
ミキヤ君の顔は、段々と私の顔へと近づいて来てる。
これを回避しなければいけないと、頭の中では思っているのに……
私の頭の中といえば、背後の男のことが大半を占めていて、“回避”について考えるスペースなど残されてはいない。
「おい、ミキヤ」
「あっ?」
「お前、そろそろ交代の時間だろ」
「えっ?マジで?」
ミキヤ君は、パッと私の手を離し、腕時計を確認すると「やべぇ」と言いながら駆け出す。
デカイ体の割に華麗なステップで、意外にも速い速度で走り去ったミキヤ君は、あっという間に人混みに紛れた。
残された私は、勿論後ろへと振り返ることはできないし、頭の中はますます背後のことでいっぱいになる。
話しかけたほうがいいのか……
話しかけるなら、何を話せばいいか……
それとも、このままリュウの元へと行ったほうがいいのか……
そういえば、リュウは?
電話をしながら、波打ち際を歩いていたリュウが見当たらない。
「おい」
目だけを左右に動かし、リュウを探していた私の体は、突然の声にビク付いてしまう。
「なんで、こっち見ないんだ?」
「べ、別に理由なんかないけど?」
どもってしまった上に、まさかの疑問系……
完璧に意味深な答え方をしちゃったし。
「なら、こっち向けよ」
「……うん」
私はゆっくりと体をジュンのいる背後へと回転させた。