もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
玄関に入った時から目につくのは、南国を思わせる家具やオブジェ。
ダイニングらしき所に入った今も、室内はアジアン家具の用な物で統一されている。
大きなテレビを中心に置かれているテーブルに二人掛けと三人掛けが対になっているソファー。
その奥には対面キッチンがあった。
高層マンションの最上階に相応しい広さと高級感に、落ち着きを感じる。
「お邪魔します」
私はお母様とジュンが座っている三人掛けのソファーではなく、二人掛けのソファーに浅く腰かけた。
電話をしてるお母様が視界に入る。
可愛らしい笑顔で、楽しそうに会話をするお母様に女の私でさえ見とれてしまう。
電話の相手は一体誰なのだろう。
私の周りには、こんなに楽しそうに、こんなに優しい表情をする人はいない。
「ジュン、伸也さんが変わってって」
そう言いながら、携帯を差し出したお母様を、一瞬鋭い目付きで捉えたジュンは、乱暴に携帯を受けとる。
「変わった」
「あぁ、大丈夫だ」
「てめぇが面倒みろよ!」
通話中のままなのか、一方的に切ったのかはわからないけれど、携帯を思い切り床に叩きつけようと振りかぶったジュンに「ジュン!」とお母様が声を掛ける。
その瞬間、空気を抜かれた風船のように、力をなくすジュン。
「壊すなら自分の携帯にしてね」
力を無くしても、こちらに怒りが伝わってくるくらいピリピリとした空気なのに、お母様はいたずらっ子みたいな顔をして、ジュンから携帯を取り上げた。
さすが、母親。
子供に動じることはないのか。