もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
話が終わると、お母様はすぐにふわふわとした雰囲気に戻った。
そのことに安堵し、少し緊張が解れていたのに
「亜美!!」
という大声にまたしても緊張が走る。
バタンという音と共に、お母様へと走りよる一人の男。
私の視界に、その男が入った途端、息が出来なくなりそうだった。
高そうなスーツにセカンドバック、黒髪をオールバックにしている姿は、いっけん“一昔前の格好”をイメージさせたけれど、男の横顔を見た瞬間にそんなものぶっ飛んでしまう。
カッコいい男というものは、“ダサい”と言われる装いをしていようと関係ない。
寧ろ、イケてる格好をしていれば、誰だってそれなりに見えるものなんだと思う。
けれど、私が呼吸をするのを忘れたのはそんなせいじゃない。
男の纏ったオーラがあまりにもピリピリしたもので、存在そのものが、何かを制圧するような力を持っていた。
“怖い”なんていう簡単な言葉ではすまされない、この男の存在感。
「伸也さん、ごめんね。忙しいのに……」
「そんなことはどうでもいい。体調は?」
「落ち着いたから、大丈夫。ジュンがすぐに来てくれたし、ほら、可愛い彼女さんも来てくれたの」
そう言った、お母様の視線を追い掛ける男。
顔を強張らせながら、男の視線が私へと辿り着くのを待っていたのに、向けられた視線は、拍子抜けするほど穏やかなものだった。
「ごめんな。目に入らなかった」
「伸也さん!そんなこと言うほうが失礼でしょ!?」
「そうだな。申し訳ありません。ジュンの父親です」
一瞬、お母様に移った視線は、私へと戻り、立ち上がった男は深々と私に向かって頭を下げた。
「え、えっ!?あの、そのですね。こちらこそ、勝手に上がり込んでしまって」
慌てて立ち上がり、頭を下げようとすると
「ほっとけ。行くぞ」
と、言うジュンの声に制止させられた。
「はっ!?なに?」
私はジュンに腕を掴まれ、引きずられるように、玄関の外へと放り投げられる。
なんなの!?何が起きているのかわからない。
というか、何が起きてるのかわかりたくない。
「行くぞ」
「どこに?」
「話せる場所に」
「そうだね。そうしてもらいたい!たっぷり、ゆっくり、話してもらわなきゃね!!」
「何キレてんだ!?ごちゃごちゃ言ってないで行くぞ」