もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
ジュンの最後の台詞にブチンと、音を立ててキレた私は、終始無言を貫いた。
「ファミレスとかのほうがいいんだろうけど、俺、あーいう所で話しにくいから、またラブホでもいいか?こないだも言ったけど、そういう意味じゃないぞ。ゆっくり、話がしたいんだ」
なんだか、ちょっとだけキュンとしたけど、キレてるんだアピールをしたい私は、勿論スルー。
何も言わないイコール、“イエス”だと思っているのか、ジュンはぶつぶつと何かを言いながら、バイクを走らせた。
そして、無言のまま、ラブホで向かい合う私達。
「亜美の面倒看させて悪かったな」
「……」
「何でさっきから喋んねぇんだよ」
「……」
「俺とは喋りたくないってことか?」
「……」
違うし、怒ってるんだし。
「なら、しょうがないな」
「……」
何が?
「出るか」
「……」
はっ?
「帰るぞ。送る」
「はっ!?ちょっと待ってよ!」
本当に帰ろうとしているジュンに声をあげると、振り向いたジュンの口角はゆっくりと持ち上がる。
「やっと、喋ったな」
「はっ!?騙したの?最低!」
「騙したわけではない。お前が喋らないなら帰ろうと思ってたし。俺も暇じゃねぇんだ」
「マジでなんなの!?こんな扱いされるの初めてなんだけど!!」
私は沸き上がる怒りのやり場に困り、ジュンに背を向けた。
「でも、好きなんだろ!?」
「……」
「それでも、俺のことが好きなんだろ?」
「ホント最低」
なんで、こんな状況でいきなりそんな話なんだろう。
確かに、この話はしたかったけど、このタイミングじゃない。
今は私の、この押さえきれない怒りについて話し合って、謝罪なり、土下座なりをしてもらいたい……って……
思ってたのに、いつの間にあの怒りはいなくなっていた。