もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
「俺だって好きで純麗を一人にしているわけじゃない。わかるよな?」
「……ん」
「まだ、純麗にはわからないかもしれないが、自分の気持ちを優先できない立場ってのが、仕事をすると出てくる。でも、もう少しだ。もう少し我慢してくれ。そうすれば、純麗と居られるようになる。こんなホテル暮らしも終わりにできる」
言い聞かせるように、ゆっくりと優しく話をするとーちゃんに、少しだけ腹が立つ。
だって、そんなこと言い始めてから何年経った?
私は後どれくらい待てばいい?
「純麗、それまで寂しい思いをさせるけど、いい子で待っててくれ。心配させるようなことはしないでくれ」
鬱陶しそうに溜め息を吐いたとーちゃんを見て、もう限界だった。
「待てない。いい子になんて出来ない」
「純麗、どうした?純麗らしくないな」
「私らしいって何?!とーちゃんは私の何を知ってるわけ?もう、待てない。私にだって、限界がある!!」
大声で喚いた私に向かって
「知ってるだろ」
と、あの声を出したとーちゃん。
電話での声と同じ。
そして、その声はまだ続く。
「お前のことを誰よりも知っているのは俺だ。すべて知ってるよ」
背中がゾクリとし、怖さのあまり、とーちゃんから距離を取るために後ずさる。
「リュウにつかせたのが間違いだったか……きつく言っておいたが」
「リュウは関係ない!!」
とーちゃんは相変わらずあの声のままだし、怒りのせいで怖さが半減するわけもないけど、とーちゃんつかみかかる勢いで声をあげた。
だって、間違ってる。
私が何をしようと、私の責任だし、もし、それを他の人に責任転嫁するなら、保護者であるとーちゃんのみ。
だから、この話はとーちゃんと私の問題でリュウは関係ない。
「俺が側に居れないから、金を払って雇ったんだ。何かあればリュウの責任だ」
「そ、そんなの間違ってる……」
もっと言ってやりたいのに、どんな言葉を言えばリュウの責任にならないのかわからない。
「もし、リュウの責任を問われたくないなら、いい子にしてろ。わかったな」
リュウはあんなんだけど、友達で……
その友達を庇うことすら出来ない自分の不甲斐なさに涙が出そうだ。
「わかったよな?純麗」
そんな優しい声を出されたって、頷けない。
下唇を噛みしめ、私にできる唯一の抵抗をする。
無言の抵抗ってやつを……