もうスキすぎて~ヤクザに買(飼)われた少女~
そんな怪我、今まで見たこともないから、本当は視界にいれているだけで胃の辺りがムカムカする。



けど、その傷から目を逸らさないことが、今の私にできる唯一のことだから。



「あぁ~これ?イケメンが台無しでしょ!?山さんも顔ばっかり狙わなくてもいいよね!」



顔だけを狙ったんだ。



それなら、きっと私への当て付けのためだね。



私が罪悪感に溺れるように……



とーちゃんの言い付けを破らないように……



「そんな顔しないでよ!俺なら大丈夫だから」



「大丈夫なはずないでしょ」



私はそっとリュウの頬に手を添えた。



「純麗ちゃんの手、冷たくて気持ちいい」




「まだ、熱持ってるからだよ」



リュウは猫みたいに、私の手に頬を刷り寄せる。



「痛くないの?」



「痛いけど、気持ちいい。こういう快感ってたまんないよね!」



「こんな時に何言ってるわけ!?」



「っつ……」



勢いよく、頬から手を離したせいか、リュウが始めて顔を歪めた。



「ごめん。やっぱり痛いんじゃん」



「そりゃ~ね、痛いけど。でもさ、体の傷は何日かすると、ビックリするくらいに治るから。で、その痛みなんて忘れちゃう」



「そうだけど……それは、私の」



「そっちのほうが痛いじゃん。純麗ちゃんの心にできた傷のほうが痛いよ。きっと純麗ちゃんは、その痛みを忘れられない。ってことは傷の完治はあり得ないってことでしょ!?」



リュウの表情は怪我のせいでよくわからないけど、きっと今まで見たことがないような表情をしてるんだろうな。



だって、聞いたことがないくらい優しい声をしているから。



リュウの言葉に再び涙が込み上げてくる。



リュウは何で優しいの?



こんな私にどうして優しくするの?



どうして側に居てくれるの?



聞きたいことは山ほどあるのに、私は何一つ問うことはできずに、ただリュウの腫れ上がった顔を見つめていた。


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