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歯がゆいって言うのはこういうときの言葉なんだろうな。

代夏、君に早く会いたい。声が聞きたいよ。

オレも負けないよ。

一人で死の恐怖と戦った君と同じように戦うから。


開くはずの無いドアが開いた。

春季さんだと思って顔を上げると、女の人がいた。

美人だけど、どこか棘のありそうな女の人が、オレを見ていた。

一瞬で分かった。代夏と春季さんの母親だって。似ているんだ、やっぱり。

「どなた?」

疑いの眼差しでオレを見ている。

この人が代夏を一人の道に歩ませたんだ。とても勝手な理由で。

「代夏さんとお付き合いをさせてもらっています。忍足爽透です」

どう反応するか分からないが、本当のことを伝えた。

「そう」

それだけ言って、オレの横を通り備え付けの引き出しに分厚い封筒を入れた。

「ここにお金入れておくからって伝えて」

「それだけですか。さんざん自分勝手な理由で代夏を一人にしてきた癖に、死ぬかもしれない手術にも立ち会わないで、顔も見ないで帰るんですか?」

「あの子は私よりも強い、結局誰からも認められて愛されてる。私は全てを無くしたわ。春季も地位も家族も何もかも」

彼女は震えていた。

「全部あなたに原因があるんじゃないんですか?」


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