バスボムに、愛を込めて
当日は朝から目が回りそうな忙しさだった。
もともと割り当てられていた仕事はバイヤーさんたちが来場してからのことだけれど、それ以外に、会場設営や試供品の数の確認などの雑用に追われ、まだ関係者しかいないはずの展示場はすでに熱気に満ちていた。
「ここのディスプレイはこんな感じでいいですか?」
「うん、オッケー。そしたら次はこっちの下地並べて!」
ひとつ終わったと思えば次の作業。だけど、こういう充実した忙しさは大好きだ。
きっと汗をかくと思ったから、シャツの替えも持参してある。
ほとんどの準備が終わって、商談用のテーブルや椅子も綺麗に並べ終わった頃、あたしはその着替えを持って、会場からロビーを抜けた先にあるトイレへ向かった。
「ふう……」
トイレの鏡の前で、一息つく。
汗をぬぐって少し崩れたメイクを直し、白いシャツから涼しげな薄いブルーのシャツへと着替えた自分を観察し、これならバイヤーさんたちに悪い印象は与えないよね、と一人納得して、ロビーの方へと出た。
すると、忙しすぎて全然意識することのなかった愛しの彼が、目の前に。
「羽石、ここにいたのか」