バスボムに、愛を込めて
「本郷さん!」
うわぁ……本郷さんも上着脱いでる。
肘まで捲ったシャツから覗くたくましい腕を一目見ただけで疲れが飛んでった。もう一度最初から会場設営やってもいいくらい。
「もう最終打ち合わせまで済んでるなら、ちょっと休憩しないか?」
そう言って、本郷さんがあたしに差し出したのは、冷たいミルクティーの缶。
今いる場所からから見える自販機で買ったのだろうけど、その前には同じく休憩に入ってる色んなメーカーの社員たちが長蛇の列をつくっていて、簡単に買えそうにない。
「あそこに並んで買ったんですか?」
「ああ。俺のとこはわりと早めに作業が一段落したから、あそこまでは混んでなかったけどな」
「ありがとうございます……しかもミルクティー、あたし好きなんです」
「知ってる」
一言そう言って、自分の無糖コーヒーのプルタブをカチ、と開けた本郷さん。
知ってる……って、なんで?
あたしは本郷さんの喉仏がコーヒーを飲みこんで動くのを見て、いつもみたいな妄想世界に浸りそうになりながらも聞いてみる。
「あたし、話したことありましたっけ? ミルクティーが好きって……」
「そんなのわざわざ聞かなくてもわかる。お前会社でいつもそれしか飲んでないだろ」
……そ、それって。
「あのう、自意識過剰な発言をしてもいいでしょうか?」
あたしは火照った心をなだめるように冷えた缶を抱き締めながら、そう尋ねた。
だって、今のはこう思っても仕方がない。
“あたしのこと、毎日見てくれてるんですか――”って。
その質問に、本郷さんはあたしの方を見ないでこう答えた。
「過剰……でもないだろ。なんとも思ってないやつと一緒に休憩時間を過ごしたいとも思わないし、広い会場を探しまわったりもしない」
……なんか、なんか。まわりくどくて全然素直じゃない言い方だけど。
あたしの解釈であってるのなら……ものすごく、ものすごく、嬉しいこと、言われた。
鎮まりかけてた心が、紅茶をあっためてしまいそうなほどにまた熱くなる。