バスボムに、愛を込めて
「……聞いてるのか」
「あ、はい! 能天気って。でもそれがあたしの長所なんで!」
「短所の間違いだろ……」
おでこに手を当てて疲れたように呟く本郷さんを見て、寧々さんが笑いを噛み殺している。
ひとしきり笑った彼女はいい香りを漂わせながら壁沿いにある棚の前にに移動すると、この実験室専用のノートパソコンをそこから出した。
そしてあたしたちが企画書を広げている実験台ではなくもう一つの方にそれを置き、立ち上げる準備をしていた。
「葛西、何するんだ?」
「やっぱり他社製品を見てみないとね。盗める要素は盗みたいし、他社がまだ考え付いてないものも提案しなきゃならないだろうし」
……なるほど、寧々さん、鋭い。
じゃあ、それは彼女にお任せするとして、あたしたちは何をすれば?
指示が欲しくて本郷さんの顔を覗き込むと、眼鏡の奥の瞳が細められた。そして呆れたような声で彼は言う。
「大口叩いた割に、指示待ちか。やっぱり大した戦力じゃなさそうだな。きっとファンデーションの話はまぐれだったんだろう」
「そんなこと……!」
否定したかったけれど、確かに今、自分ではなにも考えずに本郷さんに頼ろうとしてしまったのは事実。
ああ……あたしとしたことが。いい加減煩悩には引っ込んでてもらって、真面目に仕事と向き合わなきゃ。