バスボムに、愛を込めて
ぱっと振り向いた先にあった顔を見るなり、あたしは目を見開く。
「こ、孝二!」
なんで、孝二がここに――!?
「なんでって顔してるな。言ってなかったっけ? 俺の転職先」
「聞いてない……けど」
言いながら、孝二の首からぶら下がる、今日のイベントの関係者全員がつけている身分証に目をやる。
そこに書かれていたのは、有名な外資系化粧品メーカーの名前。
「言っとくけどお前と一緒の業界だからって選んだわけじゃないぞ? 前勤めてたのが外資系の製薬会社だったから、拾ってもらえただけで」
「……別にそんなこと疑ってないよ。そっか、じゃあ孝二の会社も出展してるんだね。あ、ねぇ、そうだ。さっきの人なんて言ってたの?」
「ああ、それなら“トイレはどこか”って」
「……へ?」
た……たったのそれだけ?
ぽかんと口を開けて間の抜けた顔をするあたしを見て、孝二が吹き出す。
「対応してたのが美萌じゃなければ特に気にしなかったけど、お前昔っから英語苦手だから、もしかしてくだらないことでつまずいてるんじゃないかと思って声かけたんだ。そしたら見事にビンゴ」
「なんだ、そっかぁ……でも、よかった。会社に迷惑かけちゃうようなことにならなくて。助けてくれてありがとね、孝二」
「……おう」