バスボムに、愛を込めて


素直にお礼を言うと、孝二は自分の頬を撫でながら片側の口の端を上げた。これは昔から孝二が照れたときにする仕草。

この間の別れは気まずいものだったけど、やっぱり孝二はイイ奴だ。
このまま昔みたいに戻れたらいいのに……と思うのは自分勝手かな。


「なぁ美萌、今日これ終わったら少し時間――――」

「――羽石!」


ドキン、と胸が跳ねたのは、真面目な顔になった孝二が改まって何かを言おうとしてたからじゃなく……


「本郷さん……?」


あたしの王子様が、珍しく慌てた様子でこちらに駆け寄ってきたからだった。


「さっき、平気だったか?」

「さっき……?」

「外国人バイヤーと話してただろ? 見えてたんだがなかなか持ち場を離れられなくて……」


本郷さんはそう言って、申し訳ないっていう気持ちが滲んだ優しい眼差しをあたしに向ける。

あの時は周りの女性たちに少し嫉妬してしまったけど、ちゃんとこっちを気にしてくれていたんだとわかって胸がほわっと温かくなる。


「大丈夫です。あの、彼が助けてくれて……」


孝二を紹介しようとそう言いかけたけれど、あたしが言うまでもなく孝二は名刺を取り出して自己紹介をしていた。


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