バスボムに、愛を込めて
15.恋心、梅雨入り
展示会での成果は上々……だったらしい。
あのあと、あたしはボロを出さないように必死になることしかできなくて、周りが全然見えていなくて。
気がつけば、あんなにたくさんあったブースは解体されていて、後片付けも終盤に差し掛かっていた。
「羽石さん、これからベースメイクの皆でご飯でも、って話出てるけどどうする?」
余った試供品を段ボールに詰める作業中、近くにいた先輩社員に尋ねられ、あたしは少し考えてから聞き返す。
「あの……参加しないとまずいでしょうか?」
「ううん、そんなことないと思うよ。今日は皆疲れてるから、出る人もそんなに多くないみたいだし。羽石さんも展示会初めてだったんだもんね、気にしないで家でゆっくり休んで?」
「すみません、ありがとうございます……」
疲れてる……っていうのとは少し違うけど、食欲もないし、何より笑顔を作れる自信がない。
仲良しの麻里ちゃんがここにいれば相談もできたけど、彼女は留守番組らしく、会社で通常業務をしているそうだ。
すべての作業が終わると、何もない巨大な空間に姿を変えた展示場を、あたしはとぼとぼと出入り口に向かって歩いた。
もう一度本郷さんと話ができないかとその姿を探してみたけれど、もう帰ってしまったらしい。
彼の姿はおろか、他のメンズコスメ部門の社員たちも見当たらなかった。