バスボムに、愛を込めて
……お嬢の言う通りなら、その時に落ちた可能性は高い。でも、カフェにないのはなんで?
お店の人を疑うわけじゃないけど、自分たちの目でもう一度探してみた方がいいかも、とあたしが口にしようとした時だった。
「――あ、もしかしたら……」
お嬢が言うには、バッグの中身を拾う時に手伝ってくれた人がいたらしい。
印象的だったのは、その人が床に落ちたお嬢の社員証を手にして、じっくりと眺めていたこと。
「社員証自体はすぐ返してくれましたけど、なんていうか、目が怖かったような……」
「うーん、それだけじゃ何とも言えないね……その人が持ち去った証拠はないし、仮にそうだとしても手がかりは何もないし」
腕を組んで唸るあたしに、お嬢はあっさりとある事実を告げる。
「あ、いえ。その人の勤め先ならわかります」
「え?」
「その人……私の隣の席で電話に出ているときに、会社名を言ってました。何もなければすぐに忘れちゃうとこですけど、私が就活で落ちた第一希望の会社だったから、耳に残ってて……」
お嬢が就活で落ちた……ああ、可愛いバスボムを売り出してる会社だっけ。
なんて、呑気に思っている途中で、胸にいやな予感が広がる。