バスボムに、愛を込めて
「それって……かなりまずい状況なんじゃ」
同業者に、うちの新製品の情報を与えるなんて、わざとでなかったとはいえ背信行為に当たることかもしれない。
しかも、その原因を作ってしまったのは社長令嬢。このことが公になったら……!
ぞぞぞ、と背筋に寒気が走り、あたしはお嬢に詰め寄り問いただす。
「そこ、なんて会社!」
「ええと、株式会社――――」
彼女の小さな唇が紡いだのは、あたしも聞き覚えのある、そして視覚情報としても記憶に残っているある会社の名。
あたしは展示会の日にその名を見た。
幼なじみの首からぶらさがる小さなカードの上で。
『――もしもし?』
「もしもし、孝二、あのね! 至急調べて欲しいことがあって!」
向こうが仕事中かどうかとか、そんなことも気にせずにあたしはその場ですぐに孝二に連絡を取った。
幸い電話はすぐにつながり、あたしは必死で状況を説明しようと頭の中で言葉を組み立てる。
おおごとになる前に、孝二に助けてもらおうって。
そればかりを考えて……
『……ちょうどよかった。そろそろこっちから連絡しようと思ってたんだ』
なのに孝二ときたら、まるで遊びの約束でも取り付ける電話とでも思っているかのように、のんびりとした調子でそう言った。