バスボムに、愛を込めて
「本郷さん!」
アイツはいつも、必要以上に大きな声で俺を呼ぶ。
離れたところにいれば、絶対に走ってこちらまで来る。
俺が下がった眼鏡を直せば例外なくだらしのない顔になり、その後、意識をどこか遠くへ飛ばしている。(おそらく、勝手な妄想をしているのだと思う)
知れば知るほど変な奴。
こんな奴に好意を寄せられていて、しかも半年間同じチームで過ごすなんて、憂鬱以外の何物でもない。
……と、思っていたのは最初の頃だけ――具体的に言えば、懇親会が行われる前までだ。
あの日葛西が酒の席で投下した爆弾に俺は過剰に反応してしまい、場の空気をぶち壊したにも関わらず羽石は俺を探してくれていて。
公園で人の名前を叫ぶのはやめて欲しいと思ったが、アイツのまっすぐな想いを思い知らされて、思わず自分のことを多く語りそうになった。
あるときから突然自分が潔癖になってしまったこと。
そのせいでろくな恋愛をしてこなかったこと……
でも俺はそれを語らず、羽石を突き放すようなことを言って、自分を諦めるように仕向けた。
……はず、だったのに。
「あたし――っ! 諦めませんから!」
羽石はまた、他人に聞かれたら恥ずかしいくらいの大声でそう言ったのだった。
そこまでしつこい女は初めてで、でも煩わしいとは思わなかった。
このまま羽石に心の扉をノックされ続けたら、何重にも鍵をかけていたはずのそこが開いてしまうんじゃないかと思い始めていた。