バスボムに、愛を込めて
洗いたての白衣に袖を通し、ロッカーを閉じると自然にため息がこぼれた。
あの日からもう二週間が経つのに羽石に謝ることができず、それどころかいつまでも冷たい態度を取り続ける心の狭い自分に、そろそろ疲れていた。
今まで俺が何を言っても、折れることなく、むしろ噛みついてくるくらいの勢いがあった羽石なのに、さすがに今回のことは堪えたらしい。
仕事中は気丈に振る舞っているものの、ふとした瞬間に今まで見たことのない翳りを表情に漂わせることがある。
それを見て痛む胸に気付かないふりをするのは、そろそろ限界かもしれない。
なぜなら、俺は紛れもなく羽石を……
「ちょっと、顔貸してくれない?」
ロッカー室から出た俺を待ち受けていたのは、艶やかな黒髪をうっとうしげにかきあげる同期の葛西だ。
その姿は相変わらず女優のように綺麗だが、台詞と視線が怖すぎるだろう。
……羽石が砂浜に描いた似顔絵そっくりだ。