バスボムに、愛を込めて
「ねえ、あのジメジメした美萌ちゃんどうにかしてよ」
誰もいない薬品庫。ひんやりと一定の温度に管理された狭い室内の、棚と棚の間で向き合った葛西が俺に言う。
やっぱりそのことか……
見た目に似合わずよく食べ、よく笑い、よく怒る葛西なら、いつかは首を突っ込んでくると思っていた。
そういう情に厚いところが好きで、でも、恋人として好きにはなれなかった。
そんな俺にも前と変わらず接してくれるコイツは、本当にいい女だと思う。
「どうにか……するつもりではいる」
俺はぼそぼそと呟いた。
「つもりってなによ」
「いや……きっかけがなかなか」
そう、この状況を打破しようと、頭では考えている。
でも、いざ羽石本人を目の前にすると逆の態度を取ってしまって、自己嫌悪に陥る……その繰り返しだ。
頼りないことを言う俺に、葛西はわかりやすくため息を吐き出す。
「美萌ちゃん、かなり無理してるわよ。仕事の時だけはって気張ってるけど、それもいつまで続くかわからない。……で、なんでこじれたわけ? 両想いのくせに」
「両、想い……」
そんなフレーズを使うのは久しぶりで、思わず頬が熱くなる感覚がした。
羽石と関わるようになってから、心の中の今まで眠らせていた部分が次々目を覚まし始めていて、自分でもその変化にうまくついていけてない。