バスボムに、愛を込めて
一人で乗るつもりだったタクシーに、葛西まで一緒に乗り込んできた。
そしてなぜか俺より先に「さっさと出して。後輩のピンチだから急いで!」と荒い息で運転手に指図していた。
「……なんでお前までついてくるんだ?」
「だって、本郷くん弱そうだし。それにうちの後輩二人も困らせるなんて腹が立つじゃない?」
まあ……確かに。というか、葛西より強い奴なんてそういないと思うが。
でも、あの男はガタイもよかったし、もしかしたら葛西まで危険な目に遭うかもしれないのに。
「彼と美萌ちゃん、幼なじみなんでしょ?」
「……ああ、そう言ってた」
「きっと、本郷くんに恋してどんどん綺麗になってくあの子を見て、焦っちゃったのかもね。……ま、理由がどうあれ許す気なんてさらさらないけど」
「ああ」
俺は葛西の意見に深く頷き、焦る自分を落ち着かせるように窓の外を流れる景色に目をやった。
小森に聞いた話では、羽石が中丸とどんな話をしていたのかまではわからなかった。
でも、小森の目には羽石がかすかに震えているように見えたらしい。
そのことと、廊下で俺にぶつかった時の羽石の台詞……
『て……敵地に乗り込んできます! でも、加勢はいりませんので!』
あれは俺たちに対して、これから起こることを必死に“隠そう”とする心と、“助けて欲しい”という心とのせめぎあいから出た言葉だったのかもしれない。
加勢はいらない、というのは、おそらく中丸に一人で来るように指定されたのだろう。
……卑怯な男だ。大切な人に脅しみたいな真似をして、怖がらせて。
羽石の笑顔がアイツのせいで消えるかもしれないと思ったら、膝の上で握っていた拳に爪が食い込んでいた。