バスボムに、愛を込めて
「お釣りはいらないから!」
目的地に到着するなり、万札を投げつけるように運転手に渡した葛西は、俺より先に、太陽の光を眩しく反射する大きなビルの中へと入っていく。
男の俺よりよっぽどヒーローみたいな葛西に後れを取りつつ、受付に行ったときにはすでに葛西が受付嬢とやり取りをしていた。
「中丸は、ただいま席を外しております。ご用件をこちらで承ります」
「だーかーらー! そいつが私の可愛い後輩に乱暴しようとしてるんだってば!」
……馬鹿、葛西。
そんな感情的になったら余計に怪しい奴だと思われるだろうが。
「――あの」
鬼みたいな形相の葛西の後ろから俺が控えめに声を掛けると、受付嬢の顔色がぱっと明るいものになった。
こういう時、眼鏡を掛けている、というのは自分をまともな人間に見せるのに割と有効だ。
まあ、急に瞬きの回数を多くした受付嬢を見る限り、眼鏡効果というよりただ俺の容姿が彼女のミーハー心をくすぐってしまっただけのような気もするが。
俺は名刺を出して自分を名乗ってから、目から煩わしい桃色光線を出してくる受付嬢にこう告げる。
「今朝中丸さんとお会いした際に、お互いの持っていた書類が入れ替わってしまったようなんです。中丸さんも困っておられると思いますので、直接お侘びを申し上げた上で書類をお返ししたくて……」