バスボムに、愛を込めて
……えーっと。ここが、寧々さんおススメ。
あたしは眩しい春の日射しに目を細めながら、ところどころ肌色の剥げた豚が笑っている看板を見上げる。
笑顔の豚の口の中書かれた店の名前は、“まんぷく亭”。
パスタは……出てこなそう。
「羽石さん、入るわよー」
寧々さんは、よっぽどこのお店がお気に入りなのか、なんだか生き生きした表情だ。
でも、寧々さんがまんぷく亭……あたしがもし寧々さんに恋焦がれてる男子だったなら、ちょっとショック受けそうなんだけど。
戸惑いながらも店に入ると、むわりと香ったのは揚げ物の匂い。内装はいたって普通の定食屋さんで、カウンター席とテーブル席が狭い店内に並ぶ。
あたしたちはテーブル席を希望し、少し待ってから四人用の席に案内してもらえた。
「羽石さんは、何食べる?」
あたしがマスクを外していると、点々と油染みのついた手書きのメニューを寧々さんが差し出す。
「うーん……どうしよう。寧々さんは?」
「私はいつも決まってるから見なくてもいいの」
「じゃあ……あたしは、ヒレカツ定食で」
「わかった。すいませーん!」
寧々さんが手を上げて、大声で店員さんを呼んだ。
なんだかその仕草も寧々さんには似合わない気がして、あたしは驚いてしまう。
やがてやってきた無愛想な店員さんに、彼女はてきぱきと料理の注文を始めた。
「ヒレカツ定食がひとつと、メンチカツ定食がひとつ、それから……」
ん? ……それから?