バスボムに、愛を込めて
「な、なに……?」
怖がるな、美萌。相手は昔からの幼なじみ、きっと話せばわかってくれる。
「なに……って。わかってて来たんじゃないのか?」
あたしの耳の脇に片手をつき、反対の手で顎をつかんだ孝二。
あまりに顔が近すぎて、孝二の目が見れない。
「あたしは……ただUSBを返して欲しくて……」
「……だから。電話で言ったろ? 返すにはそれ相応の交換条件が要るって」
顎をつかんでた手がゆっくり肩に落とされて、あたしの身体をなぞるように、下へ下へと降りていく。
いくら馬鹿なあたしでも、孝二の言う“交換条件”の意味くらいわかる。
……だけど、そんなの呑めるわけがない。
早く九階に着いて――。
そればかり祈って、扉の上で光る階数表示をじっと見つめる。
でも、孝二はそんなあたしを嘲笑うかのように言った。
「残念だけど、九階には誰もいない。今、階全体が改装工事してるんだけど、今日は休工中」
そんな……! 一気に増してくる恐怖に思わず目をぎゅっと閉じたあたし。
それでもエレベーターは無情にあたしたちを九階へ届けたらしく、ポン、と軽い音が小さな箱の中に響いた。