バスボムに、愛を込めて
いつまでも熱を持ったままでひりひり火照る唇が、キスで火傷して明太子みたいになってるんじゃないかとふにふにとそこを押して確認していたあたしに、本郷さんが言った。
そしてゆっくり、胸ポケットに入れていた眼鏡を掛け直す。
ひどいこと……あたしはキスの余韻からようやく醒め、まだ思い出すとズキンと胸が痛むあの記憶を脳裏に呼び覚ます。
「“不潔女”……ですか?」
「……ああ。あれはただのつまらない嫉妬だ。お前が中丸と親密そうにしてるのが気にくわなかった」
そう言って、本郷さんがあたしの髪にそっと触れる。優しく毛先まで梳かす指先は、今の言葉が彼の本心だと言っていた。
あたしは微笑んで首を横に振り、あたしを撫でる彼の手を、猫か犬みたいに目を閉じて受け止めた。
それにしても、さっきからあたしが普段思い描いてるような妄想をはるかに上回る展開。
あの本郷さんが嫉妬するなんて。ていうか抱き締められちゃったし。
おまけにキスまで……そこまで考えて、はた、と思い当たる。
キス……といえば。本郷さんって、キスができなかったんじゃ――?
「本郷さん……」
「ん?」
「潔癖性……直ったんですか?」
閉じていたまぶたを開いて、あたしが投げ掛けた質問に、彼はちょっと気まずそうな顔をした。
「それはたぶん……まだ、だと思う」