バスボムに、愛を込めて
「……本郷くんとはどうだね?」
「えっ!? しゃ、社長がどうしてそれを……!」
お嬢が家で話したの? にしても、なんで今ここでそんな話を……!?
あたしの驚きぶりを見てにんまりと笑った社長は、再びあたしの耳元で声を潜めて言う。
「いやー、きみが新入社員で入ってきた年の入社式のことだがね? あそこまで上の空というか、とにかく本郷くんのことしか見てないきみは印象深かったよ」
うわわわ、あたしってば、社長になんて失礼なことを……!
「も、申し訳ありません……あの時は、その……」
本郷さんがあまりにカッコよすぎて……なんて、言い訳が許されるわけない。
なんて言えばいいんだろぉ……とにかく頭を下げるしかない。
「別に謝る必要はない。最初はどんな社員なのかとちょっと不安でもあったが、きみの本来の部署であるベースメイク部門の責任者から、真面目で熱心で、目の付け所もいい社員だと聞いているよ」
わー、あたし、そんな風に思ってもらえていたんだ。
直接上司からそんな褒められ方をした覚えはないから、なんだか嬉しい。
「そんなきみと、それからメンズコスメとフレグランスのエースを集めたのは、飛鳥のためもあるが、私自身、わが社から素晴らしいバスボムを売り出したいからだ。きみたちには、期待してるよ」
あたしたち全員の顔を一度ずつ見て、そう言った社長。
そっか……お嬢は前に“パパの敷いたレール”と言っていたけど、社長には社長なりの考えがあってのことだったんだ。
そう言われると、俄然やる気が出る。
あたしたちは社長の言葉に深く頷いて、必ずいい商品を開発することを約束した。