バスボムに、愛を込めて


「美萌ちゃんどれにする?」

「あたしは……さっぱり系がいいです。バニラとかチョコよりはフルーツとか……」


寧々さんにそう伝えてから、あたしはさっきから涼しい顔でパソコンを叩き続けている本郷さんの方に視線を向けた。

汗はかいてるみたいだけど、あたしみたいに暑い暑いって騒がないのはさすがクールな彼らしい。


「本郷さんは何にしますか?」


そう言って彼に近づき、何気なくパソコンを覗くと、画面に映し出されていたのは、意味不明な文字の羅列。


「……なんですかこれ?」


首を傾げながら視線を彼に戻すと、その身体がぐらりと傾いていくのがスローモーションのように目に映った。


「――っ! 本郷さん!」


急いで助けようとしたけど間に合わなくて、ガタン!という大きな音とともに、本郷さんの身体は床に倒れてしまった。
はずみで眼鏡が外れた彼の顔色は、もともと色白だとはいえ、それでも普通じゃないことがわかる青白さ。

気が動転してただ傍らにしゃがむことしかできないあたしの周りに、次々とチームの全員が集まる。


「……大変だ、熱中症かもしれない。本郷くん、僕の声は聞こえてる?」


川端さんの呼び掛けに、本郷さんは苦しげな表情で頷く。

よかった……意識はちゃんとあるみたい。

だけど、あのパソコンを見る限り、かなり前から辛かったんだ。
好きな人の体調の変化に気づけないなんて、あたしってダメな女だ……

ペタンと床に座り、本郷さんの手を握る。

その間にあたし以外の皆がてきぱき動き、やがて担架を持ってやってきた川端さんと見知らぬ男性社員が、本郷さんを社内の医務室へと運んでいった。


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