バスボムに、愛を込めて


「美萌さん、無理しないで下さい」


相変わらず暑いままの実験室で、あたしは頭を抱え書類と睨めっこしていた。
埋めなきゃいけない部分は、さっきからずっと空欄のまま。


「……うん」


声をかけてくれたお嬢に気のない返事をして、持っていたペンを握り直す。

さっき医務室から戻ってきた川端さんによると、本郷さんはもう会話ができるくらいには回復してるらしい。

あと少し休ませたら自力で病院に行かせるって言っていたから、あたしのやるべきことは本郷さんのいない穴を埋めるべくバリバリ仕事をすること。……なのに、全然ペンが進まない。


「仕事に集中できないなら見てきなさいよ。あんな風に倒れられたら彼女として心配するのは当然よ」


すぐ側まで来た寧々さんがそう言って、あたしの手からペンを奪った。

そうだよね……彼女として……
……彼女?


「……あたし、本郷さんの彼女なんでしょうか?」


寧々さんを見上げ口にした素朴な疑問。
“相思相愛っぽい”という自覚はあるし、キスもした仲ではあるけど、そういえば本郷さんの“彼女”になれたという実感はない。


「……まさか、まだちゃんと付き合ってないわけ? あのUSB事件の時にお互いの意思を確認したんじゃないの? 好き同士ってわかってるならなんでそんなに曖昧なままなのよ」

「そう、ですね……よく考えたら……」


本郷さんの“大切な人”になれたならそれでいいと思っていたけど、やっぱり“彼女”っていう立場が欲しいというのが本音。

……勇気を出して聞いてみる?
“あたしは本郷さんの何なんですか?”――って。


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